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夢の国で会いましょう。【3】 明けない夜を願って-LAI 2007年02月09日[10:30]
あたしを睨み付けるようにじっと見つめる道明寺。
いつの間にか、隣にいたユウキがあたしから一歩後ろに下がった位置にいて、うやうやしくスカートの裾を少し持ち上げてお礼をしている。


どうしよう…。


どうしたらいいのかわからず、とりあえずユウキの真似をしようとした時、道明寺は黙ったままあたしの手を取り、その手の甲に昔話に出てくる王子様のように膝を折ってキスをした。


…びっくりした。
目の前の彼は紛れもなく道明寺に見えるけれど。こんなことされたことないし。
呆気にとられているあたしは、そのままゆっくり顔を上げた彼と目が合ってしまった。
行動とは裏腹に、彼の瞳は不機嫌そのものだった。


「…お前、この間送った手紙読んだか?」

彼が細い眉毛を少し吊り上げながら言った。


「て、手紙?」


何のことだかわからなかったので、とりあえずブンブンと首を横に振った。そんなあたしを見て堪忍袋が切れたのか、道明寺は突然怒り出す。


「…3時間も待ったんだぞ! このデューミエール家の後継者である俺様が3時間も!なのにお前は連絡一つ寄越さなかった! 俺がどんなに心配してたか……」


彼の大声に周りにいた人は何事かと足を止めて、好奇の目であたし達を見ている。
突然そんなこと言われてもあたしだってわからない。
ただわかるのは、この異世界で「もう一人のあたし」が目の前の道明寺と関係があるということだ。
あたしはユウキに「助けて」と困った視線を送ると、ユウキは察してくれたのか、あたしの腕を取って道明寺にこう言った。

「すみません。デューミエール様。実は…家の手伝いをしている途中、
誤って頭を強く打ったみたいで、ツクシはしばらく寝ていたんです。」

え、とあたしは思わずびっくりしてユウキを見る。
目の前の道明寺はもっと驚いた顔をしていた。
ユウキは心配そうな表情でなおもこう続けた。

「…とりあえず、あたしも今日つくしのおば様から聞いて初めて知って驚いたんですが…。ツクシは頭を打ったショックでここ数日の記憶を忘れてしまったようで…。」


ユウキはそう言ってあたしに向かって意味ありげに片目をつぶって見せた。あたしはその意味に気づいて「そうなの!」と首を縦にぶんぶん振った。
道明寺はそんなあたし達の様子をじーっと蛇のような目つきで見ていたけれど、溜息を一つ吐いてあたしの手を再び取った。


「…わかった。お前、とりあえず家に来い。一回うちの主治医に診てもらおう。」

「えええ、とんでもない!もう大丈夫よ。あたしこんなに元気だもん。
記憶ったって、ほんの数日だし。そりゃ、あんたとの約束を破ったのは悪かったけど…」

あたしは握られた手を慌てて振り解く。
もしこいつの主治医に診てもらったら、道明寺(この世界ではデューミエールかな)が知っている
「ツクシ」じゃないってばれてしまうかもしれない。
この世界ではあたしは完全によそ者だ。じゃ、この世界にいた「ツクシ」は一体どこに行ってしまったのだろう?

難しい顔をして黙り込んでしまったあたしを見て、道明寺は「とりあえず…」と続ける。


「お前のかーちゃんに言って、しばらくうちの城で養生するように頼んでやるよ」

「…って、ええ!」

「…そのリアクション、いつもとなーんか違うんだよな」


そう言ってあたしを見つめる道明寺の視線に、あたしはどきっとした。
さすが、野生の勘。


「そ、そう?」

「……俺の知ってるあいつは……って、やっぱやめた」


柄にもなく何か思い当たることがあったのか、少し赤くなって何もなかったように空を仰ぐ道明寺を、あたしは「これ以上道明寺が余計なことを思い出しませんように」と祈りながら言葉を返した。


「…まあ、別にいいけど。頭強く打っちゃったからじゃないかな。ほら、数日分の記憶がないし」

「ああ、だからこそ働いてばかりいないで、たまにはゆっくりした時間をとった方がお前にとってはいいと思うんだよな」


あたしはこれまでのどたばたした日常を思い返した。
生活のためのバイトばかりで余裕がない日々。
そして思いもよらないトラブル。
F4に出会う前の自分の願いだった「平和な日常」は、もはや望めないことになってしまったのだ。
そして、気がついたら知らない世界にいる自分。


「…そうね…たまにはゆっくりしたい…」

「じゃ、決まりだな」

きっと昔を思い出して、遠くを見ていたのだろう。
思わず口に出てしまったらしい。
売り言葉に買い言葉。はっとした時には、時すでに遅し。
あたしは道明寺にふわっと抱えあげられたかと思うと、何時の間にかそばに停まっていた馬車に放りこまれた。


「ちょ、ちょっと…あたしまだ一緒に行くって言ってない!」

「俺には『YES』と聞こえたんだけど?」


そう言ってニッと笑って答える道明寺にあたしは呆然として、思わず後ろを振り返る。少しずつ小さくなっていく景色の中に、あたしと同じように呆然として立っているユウキの姿が見えた。
目の前に座っているのは、今にも口笛を吹き出しそうな機嫌のいい道明寺。そしてこの知らない世界でも彼に振り回されている自分。


あたしは「どうしていつもこうなんだろう」と深い深い溜息を吐いて、目を閉じた。






◆後書き・・

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