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夢の国で会いましょう。【4】 明けない夜を願って-LAI 2007年03月17日[03:18]
「さあ、着いたぞ」

無理矢理乗せられた馬車に揺られて30分。
デュミエール邸は、あたしの知っている道明寺邸以上に立派で。
・・・というか「お城」そのものだった。
思わずぽかんと口を開けてしまったあたしに、
こっちの世界の道明寺はぶっと吹き出して笑った。


「お前、相変わらず馬鹿面だな」

「・・・馬鹿に『馬鹿』と言われたくない」

「あ?何か言ったか?」


多分聞こえたんだろうけど、聞こえないふりをした道明寺は、
馬車を降りると、ぐずぐずしているあたしの体をひょいと持ち上げて降ろしてくれた。


「・・・あ、ありがと」

「おう」


何か、調子が狂う。
現実の、あたしが知っている道明寺よりも、こっちの道明寺は口の悪さは同じだけど・・・
どちらかというと紳士的で優しい(気がする)。

美しく手入れされた広い庭。
開かれたドアの先には、昔、道明寺邸で見たのと同じように
使用人の人達がずらっと並んであたしたちを迎えてくれた。


「お帰りなさいませ。デューミエール様」

「おう」


そのとき、一人の若い女性があたしの方へ笑顔で近寄ってきた。
それは見たことのある顔だった。


「まあ、ツクシ様。いらっしゃいませ。今日は、ツクシ様の好きな
新しい花を仕入れたのですよ。よかったら見ていかれませんか?」

「え? 桜子? どうしてここにいるの?」


メイドの服を着てあたしに笑いかける女の子は、紛れもなく桜子だった。びっくりするあたしの顔を見て、桜子は不思議な顔をした。


「桜子? 私の名前は『サクラ』ですわ。
ツクシ様ってばお忘れになったのですか?サクラ、悲しい」

そう言って、ショックを受けたように顔を伏せて少し涙まで浮かべているサクラは、あたしの知っている桜子から小悪魔的な性格を無くしたように見えたのだった。
どうやらこの世界のツクシは、デューミエール家の使用人達と上手くやっているようだ。
あたしは何て答えたらいいのかわからず、困ったように道明寺を見た。

「ああ、こいつ、ここ数日間の記憶がないようなんだ。
で、医者に診せるために連れてきた。いつもの部屋に案内してやってくれ」

「・・・まあ! そうでしたか。それはお気の毒に。
すぐ主治医をお呼び致します。ツクシ様はこちらへどうぞ」

「そういうことで、また後でな」

ニッと笑って手を振ると、道明寺はすぐ秘書らしい人と話し始めてドアの向こうに消えた。
あたしは桜子にそっくりな「サクラ」に連れられて、この世界の道明寺の言う「いつもの部屋」に向かった。「いつもの部屋」というくらいだから、何度もこの世界のあたしはデューミエール邸に来ているのだろう。
優しいサクラに時折体調を心配されながら(桜子そっくりだから調子が狂う)、長い廊下を歩いて案内された部屋を見て、あたしはこの世界のツクシがいかに大切に道明寺に想われているのかわかってしまった。

この世界のツクシも、多分贅沢があまり好きではないらしい。
豪華な装飾品がない代わりに、ツクシの好きそうな花が所々に美しく飾られている。
ツクシが過ごしやすそうに、できるだけ気を使わなくてもよいように部屋の色は白で統一され、思ったよりも広くない部屋だった。
花が好きらしいツクシがいつでも外に出て花を見られるように、
暖かな日差しの差す窓の向こうには、色とりどりの花が咲き乱れているのが見える。


元の世界の道明寺邸で過ごした記憶が蘇る。
ぼんやりとしているあたしをベッドに腰掛けさせると、
「医者を呼んで参ります」とサクラは一礼して部屋を出て行った。


パタンと静かにドアが閉められ、一人だということを実感したとき、
あたしの目からは不思議と涙がこぼれた。



――帰りたい。



あたしの知っている道明寺がいる元の世界へ。
現実の世界のあたしの恋は、こっちの世界のツクシのように決して上手くいっていないけれど。
それでも・・・



コンコン


ノックの音が聞こえた。慌てて袖で涙を拭いて「どうぞ」と声をかけた。


「医者をお連れしました」

部屋に入って来たサクラが背の低い老人を連れてきた。
占い師のように深くフードを被っているので、顔はわからない。


「・・・・・・おやおや、もうホームシックかい?
あんたはもっと骨のある奴だと思ってたけどねぇ」


聞き覚えのある声。まさか・・・
彼女は、そう言うと持っていた杖でトントンと床を叩く。


「・・・やれやれ、あたしがわかんないのかい?」


フードを取り、意味ありげにあたしを見てニヤリと笑うその人は、現実の世界であたしが「タマさん」と呼んでいる、彼女にそっくりな人だった。




◆後書き・・

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あたしを睨み付けるようにじっと見つめる道明寺。
いつの間にか、隣にいたユウキがあたしから一歩後ろに下がった位置にいて、うやうやしくスカートの裾を少し持ち上げてお礼をしている。


どうしよう…。


どうしたらいいのかわからず、とりあえずユウキの真似をしようとした時、道明寺は黙ったままあたしの手を取り、その手の甲に昔話に出てくる王子様のように膝を折ってキスをした。


…びっくりした。
目の前の彼は紛れもなく道明寺に見えるけれど。こんなことされたことないし。
呆気にとられているあたしは、そのままゆっくり顔を上げた彼と目が合ってしまった。
行動とは裏腹に、彼の瞳は不機嫌そのものだった。


「…お前、この間送った手紙読んだか?」

彼が細い眉毛を少し吊り上げながら言った。


「て、手紙?」


何のことだかわからなかったので、とりあえずブンブンと首を横に振った。そんなあたしを見て堪忍袋が切れたのか、道明寺は突然怒り出す。


「…3時間も待ったんだぞ! このデューミエール家の後継者である俺様が3時間も!なのにお前は連絡一つ寄越さなかった! 俺がどんなに心配してたか……」


彼の大声に周りにいた人は何事かと足を止めて、好奇の目であたし達を見ている。
突然そんなこと言われてもあたしだってわからない。
ただわかるのは、この異世界で「もう一人のあたし」が目の前の道明寺と関係があるということだ。
あたしはユウキに「助けて」と困った視線を送ると、ユウキは察してくれたのか、あたしの腕を取って道明寺にこう言った。

「すみません。デューミエール様。実は…家の手伝いをしている途中、
誤って頭を強く打ったみたいで、ツクシはしばらく寝ていたんです。」

え、とあたしは思わずびっくりしてユウキを見る。
目の前の道明寺はもっと驚いた顔をしていた。
ユウキは心配そうな表情でなおもこう続けた。

「…とりあえず、あたしも今日つくしのおば様から聞いて初めて知って驚いたんですが…。ツクシは頭を打ったショックでここ数日の記憶を忘れてしまったようで…。」


ユウキはそう言ってあたしに向かって意味ありげに片目をつぶって見せた。あたしはその意味に気づいて「そうなの!」と首を縦にぶんぶん振った。
道明寺はそんなあたし達の様子をじーっと蛇のような目つきで見ていたけれど、溜息を一つ吐いてあたしの手を再び取った。


「…わかった。お前、とりあえず家に来い。一回うちの主治医に診てもらおう。」

「えええ、とんでもない!もう大丈夫よ。あたしこんなに元気だもん。
記憶ったって、ほんの数日だし。そりゃ、あんたとの約束を破ったのは悪かったけど…」

あたしは握られた手を慌てて振り解く。
もしこいつの主治医に診てもらったら、道明寺(この世界ではデューミエールかな)が知っている
「ツクシ」じゃないってばれてしまうかもしれない。
この世界ではあたしは完全によそ者だ。じゃ、この世界にいた「ツクシ」は一体どこに行ってしまったのだろう?

難しい顔をして黙り込んでしまったあたしを見て、道明寺は「とりあえず…」と続ける。


「お前のかーちゃんに言って、しばらくうちの城で養生するように頼んでやるよ」

「…って、ええ!」

「…そのリアクション、いつもとなーんか違うんだよな」


そう言ってあたしを見つめる道明寺の視線に、あたしはどきっとした。
さすが、野生の勘。


「そ、そう?」

「……俺の知ってるあいつは……って、やっぱやめた」


柄にもなく何か思い当たることがあったのか、少し赤くなって何もなかったように空を仰ぐ道明寺を、あたしは「これ以上道明寺が余計なことを思い出しませんように」と祈りながら言葉を返した。


「…まあ、別にいいけど。頭強く打っちゃったからじゃないかな。ほら、数日分の記憶がないし」

「ああ、だからこそ働いてばかりいないで、たまにはゆっくりした時間をとった方がお前にとってはいいと思うんだよな」


あたしはこれまでのどたばたした日常を思い返した。
生活のためのバイトばかりで余裕がない日々。
そして思いもよらないトラブル。
F4に出会う前の自分の願いだった「平和な日常」は、もはや望めないことになってしまったのだ。
そして、気がついたら知らない世界にいる自分。


「…そうね…たまにはゆっくりしたい…」

「じゃ、決まりだな」

きっと昔を思い出して、遠くを見ていたのだろう。
思わず口に出てしまったらしい。
売り言葉に買い言葉。はっとした時には、時すでに遅し。
あたしは道明寺にふわっと抱えあげられたかと思うと、何時の間にかそばに停まっていた馬車に放りこまれた。


「ちょ、ちょっと…あたしまだ一緒に行くって言ってない!」

「俺には『YES』と聞こえたんだけど?」


そう言ってニッと笑って答える道明寺にあたしは呆然として、思わず後ろを振り返る。少しずつ小さくなっていく景色の中に、あたしと同じように呆然として立っているユウキの姿が見えた。
目の前に座っているのは、今にも口笛を吹き出しそうな機嫌のいい道明寺。そしてこの知らない世界でも彼に振り回されている自分。


あたしは「どうしていつもこうなんだろう」と深い深い溜息を吐いて、目を閉じた。






◆後書き・・

「夢の国」の中でも、やっぱり道明寺は道明寺だった。


あたしと同じようなビラビラの服を着た女性達の視線と黄色い声を一斉に受けていても、相変わらず自分に関心のないことには無愛想だった。そして…えーと、あの格好は何て言えばいいんだろう?
…とりあえずあたしが知っている道明寺と同じで、「夢の国」の彼もその身なりはどこから見てもお金持ちにしか見えなかった。…悔しいけど、やっぱりかっこいい。


って、あたしはあいつに見惚れてる場合じゃないか。
現実の世界のあいつは今頃何しているんだろう、とあたしの胸はチクンと痛む。
思い切って話し掛けようかと思ったけれど、多分ここは現実とは違うはずだ。厄介なことに巻き込まれるのはやめておこうと思い、あたしは道明寺の視界にできるだけ入らないように、遠回りしながら通り過ぎたそのとき、



「ツクシ!」


びっくりして声のする方を振り向くと、そこにはいかにも街娘の格好をした優紀がいた。


「おばさんのお使い?」


そう言ってにっこり笑う「夢の国」のユウキ(現実の世界と分けるために、一応カタカナで)は、やっぱりあたしの知っている親友そのものだった。ホッとしたのか、あたしの涙腺がじわじわと緩み出した。


「ツ、ツクシ?どうしたの?何かあったの?」


驚いて心配そうにあたしの顔を見つめるユウキ。その眼差しは本気であたしのことを心配している。彼女ならあたしのことを話せるかも…、とあたしは決意して口を開いた。


「…何でもないよ。…ね、大切な話があるんけど…今から話す話、笑わないで聞いてくれる?」


同じ名前の「もう一人のあたし」が確かに存在しているのに、なぜか「夢の国」にいる「現実のあたし」。もう一人のツクシはどこに行ってしまったのだろう。そしてなぜあたしはここにいるんだろう?



二人で歩きながら話し始めたそのとき、あたし達の前に突然立ちはだかったのは、不機嫌な表情であたしを見つめる道明寺だった。








◆後書き・・

「国境のトンネルを抜けると雪国だった」


頭の中はぼんやりしていてよくわかっていなかったけれど、
とりあえず、目が覚め始めたあたしの頭の中に浮かんだのは、そんな書き出しで始まる小説だった。
そう言えば昔、学校の授業で読んだことあったっけ。


でも、今のあたしの状況はこうだ。


「長い眠りから覚めると、違う世界だった」


見慣れた木目の天井じゃなくて、灰色に薄汚れていて。
まだけだるい体をゆっくり起こして周りを見ると、小さい頃に見た外国を舞台にしたアニメのような、見るからに「苦労してます」を絵に描いたようなぼろぼろの家具が置いてある。
昨日まで確かに現代風のデザインだったドアは、木目がはっきり見て取れ、ペンキが剥げかけていた。


「……」


あたしは自分が見ているものが信じられなくて、キョロキョロと周りを見ていると、勢いよくドアが開いた。


「もう、ツクシ!いつまで寝てるの?今日は町に買い物に行ってくれるって言ったでしょ。ススムはお父さんと一緒にもう出かけたわよ」


ぐずぐずしないで!とまくし立てるママは、いや、ママそっくりな人は、いつも来ているジーンズとトレーナーという服装と明らかに違う。
というか、映画とかで見た貧しいヨーロッパの人みたいな服装だ。


「…ね、ねぇ、ママ。ここ、どこ?」

「…あんた、寝ぼけてんの?どこって、うちの家でしょ?
…さあ、ばかなこと言ってないで、さっさとお使い行ってきてちょうだい!お父さんが次の仕事を見つけるまで、うちはがんばらなきゃいけないんだから。」


はぁ、と溜息を吐きながらもエプロンを握り締めながらすごい勢いでまくし立てるママは、確かにあたしの知ってるママだ。
聞きたいことは山ほどあったけれど、「あの…」と言いかけるあたしをママは無理矢理ベッドから追い出し、「早く顔洗って着替えてらっしゃい!」と追い立てるように服を投げた。





*************






レースのいっぱいついた服しか着るものがなくて、映画とか歴史の教科書で見たよく似た服を着ていた女性達を思い出しながら、何とか服は着ることができた。
慣れないコルセットを前に途方に暮れていたら、ママが「何やってんの?貸しなさい!」とあたしの手からコルセットを奪い取り、ぎゅーっと気絶するかと思うほど締め付けてくれた。あんまり苦しかったので、あたしは椿お姉さんの抱擁を思い出してしまった。




それにしても……時代が違ってもやっぱりうちは貧乏なのね。
と、あたしは外に出て「マキノ家」らしい家を見た。色あせた瓦で守られている屋根は、ところどころに修理の跡があった。壁は家の中と一緒でやっぱり薄汚かった。外にはママが干したパパとススムの服らしいものが風に揺られている。


「…本当にここ、どこなんだろう?」


あたしはとりあえずママから言われたお使いを済まそうと、家から歩いて20分先にあるらしい町に向かって歩き出した。ひょっとしたら手がかりが何か掴めるかもしれないし。

きつく締められたコルセットのせいで、ちょっと胸が苦しいのを我慢しながら
わずかに持たされたお金とバスケットを持って、街に入ること数歩。




あたしはそこで、多分あたしの夢の中、…名づけるとしたら「夢の国」での姿をした「道明寺」に会ってしまった。







****************




◆後書き・・

「ねぇ、道明寺。トランプしようか」

「はぁ?」


忙しくてずっと会えなかった恋人達がやっと2人きりになれた。
メープルホテルのスウィートルームで、似つかわしくないセリフを言った目の前の彼女、牧野つくしに向かって彼は深い溜息を吐いた。


「・・・お前、熱でもあんの?」

「え?ないよ」


ソファーに深々と腰をかけて、クッションを抱き締めながら
誤魔化すように笑う彼女の額に手を当てる。

彼には彼なりに予定があったのだ。
食事を一緒にして、そのあと部屋で酒でも飲みながら・・・そのまま恋人との時間を過ごしたいと。
まぁ、詳しくは言えまいが。

彼女だって、そのつもりだと思っていた・・・んだろう、きっと。
笑顔を引きつらせながら笑う司に、『多分怒ってるよね・・・』とつくしは上目遣いで彼を見た。


「・・・一緒にいられるのは嬉しいんだけど・・・いつも食事して、お話して、
お酒飲んで・・・・・・ってパターンはあたしはちょっと・・・」

「何で」

「・・・たまにはゲームしたり、とかいろんな話を普通にしたいなぁ、
なんて思ってさ。ほら、屋上で話してたみたいに」


会えばいつも雰囲気に流されて、朝までベッドに繋がれたようになる。
愛されていることを感じる半面、つくしは正直不安になってきていた。
何も言わずに同じ景色を一緒に眺めたり、寄り添っているだけでもいい。
そういうことがしたいのだ。
同じ時間を共有するのがこうして狭い部屋の(十分広いけど)ベッドの中だけというのは寂しかった。
お互いに忙しい身だというのはわかっているけど・・・。


クッションに顔をうずめたまま、黙っていたつくしの様子に諦めたのか、
司は彼女の髪をクシャクシャと撫でた。


「・・・わかったよ。ま、俺はお前と一緒ならどこだって何だっていいけどな」

「・・・ホント?」

「・・・いや、できたらベッドの中の方が・・・」


瞬間、投げられたクッションが司の顔にヒットする。


「スケベ!」

「・・・はいはい、どうせスケベですよ。・・・ほら、トランプ貸せ」


スウィートルームの赤いふかふかの絨毯に、向かい合って座り込んでいるカップルが一組。
しかもこれからトランプをしようとしている。
「何やってんだか・・・」とこの姿をF3が見たら、呆れ果てることだろう。
それを思うと、つくしは笑いをこらえながら下を向いていた。


「・・・いつまで笑ってんだよ」


司は不機嫌そうにパラパラとトランプを混ぜて、お互いの目の前に配る。
いらないカードだけ前に出すと、「さて・・・」と司が言った。


「せっかくだしさ、何か賭けようぜ。俺が勝ったら・・・そうだなー・・・」

「・・・じゃ、あたしはあんたの小さい時の話が聞きたい」

「げ、それはちょっと・・・」

「ダメならお姉さんに聞くけど?」


ニッと笑って言うつくしに、司はチッと舌打ちした。

(こんなことなら、無理にでも・・・)


「え?何?」

「いーや、何でも。・・・じゃ、俺が勝ったら『キス』な」

「え、それはヤダ」


ブンブンと頭を振るつくしに司は口の端を引きつらせて言った。


「・・・・・・俺だって嫌な話すんだけど・・・」

「・・・わかったわよ」

「じゃ、俺からな」






***10分後***






「・・・やった!俺のアガリ!」

「げっ! 嘘!」


心底嬉しそうな顔をしてカードを放り出す司に、つくしはずりずりとあとずさりする。
結構自信があったのに、気が付いたらあれよあれよという間にジョーカー以外のカードを全部取られていたのだ。
ズイと迫ってくる司につくしは慌てながら、どうやってかわそうかと必死に考えた。


「じゃ、言ってたよな。条件として・・・」

「もう1回!」

「お前、勝ちは勝ちだ。約束は守れよ」

「・・・じゃあ、次の勝負であんたが勝ったら、2回するから!」

「・・・ま、いいか・・・次はないぜ。今度こそ守れよ」

「ん、わかった」






2回戦。キス2回がかかっているのだ。
どちらも真剣になって取り組んだ結果・・・・・・




「さすが、俺って天才!」

「ウソ!・・・って、きゃあ!」


司は上がったカードをポーンと放り投げると、呆然とするつくしを
勢いよく持ち上げて、彼女の手にしていたカードを取り上げた。


「・・・お前からしないなら、俺からするけど」

「それはダメ!・・・それより、降ろして欲しいんだけど」

「・・・どうしようかなぁ。そうしたら、お前逃げるだろうし。
俺としては、このまま目の前のベッドに・・・」

「わ、わかったわよ。じゃあ、目、つぶって」




頬に軽く1回。
ゆっくり目を開けた司と目が合って、恥ずかしさに頭に血が上ってくるのがわかる。

誤魔化すように、今度は唇に1回。
どこかで彼のスイッチが入ったのかもしれない。
それとも、最初からそのつもりだったのかもしれない。
つくしは彼からすぐ離れるつもりだったのに、そうできなかった。


掴まれた腕を解くことができなくて、しがみついた腕を外したら司の腕から落ちてしまう。
少しずつ深くなっていくキスに、『逃げる』という選択肢もやがて奪われて。
心の中にあったつくしの中のこだわりは、いつの間にかキスと一緒に蕩けて消えていった。











そして、明けない夜を願って過ごす恋人達の時間が始まる。


ぼんやりと灯るオレンジ色のスタンドライトが滲んで見えた時、
つくしの視界の端に、赤いカーペットに落ちているジョーカーのカードが
意味ありげに笑ってこちらを見ていたような、そんな気がした。











                  fin.











◆後書き・・


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